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プラネタリー・バウンダリーとは・意味

プラネタリー・バウンダリー

Image via unsplash

プラネタリー・バウンダリーとは?

プラネタリー・バウンダリーとは、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義し、その限界点を表した概念のこと。

スウェーデンにあるストックホルム・レジリエンス・センターの所長だった環境学者ヨハン・ロックストローム(現在はドイツのポツダム気候影響研究所に所属)を中心とする総勢29名の研究グループが、2009年に発表した論文の中で提唱した。内容は、2015年、2017年、2022年と何度かアップデートが行われている。2023年には、初めて9つすべてのシステムにおける完全な評価が発表された。

研究グループは、地球の安定性とレジリエンス(自然に回復する力)を維持するうえで最も重要な9つのシステムを特定し、具体的な限界値を設定したうえで各システムが限界を超えていないかどうかを分析・検証している。

気候や生態系、水・森林環境などが本来持っているレジリエンスが限界値を超えると、壊滅的な状態に達する危険性があるため、プラネタリー・バウンダリーを把握し、その範囲内で人間活動を行う必要があるとされている。

9つのシステム

もともと2009年に発表されたプラネタリー・バウンダリーの概念は、2015年版からはいくつかのシステムの名称や許容量が変更され、細分化もされている。以下では、各システムを3つのグループに分け、それぞれの内容について図を参照しながら解説する。

2023年9月に発表された「プラネタリー・バウンダリー」|Image via Stockholm Resilience Center, Stockholm University

緑色で示した部分が安全域内であり、オレンジ色・赤色に達すると「地球の限界を超えた」とみなされる。2023年の研究結果では、(上記の図の上から反時計回りに)「気候変動」「生物圏の一体性」「土地利用の変化」「淡水利用」「生物地球化学的循環」「新規化学物質」の6つの項目で境界を上回った。「海洋の酸性化」「大気エアロゾルによる負荷」「成層圏オゾン層の破壊」は3つの項目は規定数値の範囲内にとどまっている。

トップダウンで地球全体に影響を与えるシステム
  • ① 気候変動(Climate Change)
  • ② 成層圏オゾン層の破壊(Stratospheric ozone depletion)
  • ③ 海洋の酸性化(Ocean acidification)

これら3つのシステムは、いずれかが限界を超える、つまり回復不可能な状態になると地球全体に壊滅的な影響を与えるため、「ビッグ・スリー」とも呼ばれる。

「気候変動」の制御値であるCO2濃度の限界は、2023年版では350ppm、放射力は1Wm-2に設定された。現在、大気中のCO2濃度は417ppm、人為起源の総有効放射力の推定値は2.91Wm-2であり、両方が安全領域の外にある。

局所的、地域的なレベルで影響を与えるシステム
  • ④ 生物圏の一体性(Biosphere integrity)
  • ⑤ 生物地球化学的循環(Biogeochemical flows)
  • ⑥ 淡水利用(Fresh water use)
  • ⑦ 土地利用の変化(Land-system change)

「生物圏の一体性」は、2009年版では「生物多様性の損失(Biodiversity loss)」となっていたが、2015年のアップデートで名称が変わり、「遺伝的多様性(Genetic diversity)」と「機能的多様性(Functional diversity)」の2つに細分化された。制御値は遺伝的多様性を左右する生物種の絶滅率であり、自然状態の1,000倍の速さで進行し既に限界を超えている。

「生物地球化学的循環」は、海洋や土壌に溶け出したリン(P)と窒素(N)を制御値とし、それぞれについて限界値が定められている。

「土地利用の変化」についても既に下限値を超えている。地球のレジリエンスを維持するために必要な自然森林被覆は北方/温帯/熱帯林のそれぞれで85%/50%/85% とされているが、森林火災やアマゾンの熱帯林の森林伐採が増加した結果、いずれの地域でも境界を超えてしまっている。

2023年に新しく定量化されたシステム
  • ⑧ 大気エアロゾルによる負荷(Atmospheric aerosol loading)
  • ⑨ 新規化学物質(Novel entities)

「大気エアロゾルによる負荷」の境界の定量化に関しては、エアロゾル光学深度(AOD)が一般的な制御変数とされるが、今回の研究ではグローバルに定義された制御変数として、「年間平均の半球間のAODの差」が使用された。そしてプラネタリー・バウンダリーの値としては、「年間平均の半球間のAODの差=0.1」が割り当てられた。エアロゾルの負荷の影響は、降水だけでなく、地域の気候全体にも影響を与えることが指摘されており、陸上および海洋生態系への大気質への影響もすでに明らかになっている。

「新規化学物質」は、2009年版では「化学物質による汚染(Chemical pollution)」となっていたが、2015年のアップデートで名称が変わった。今回計測された「新規化学物質」には、合成化学物質や物質(例:マイクロプラスチック、内分泌撹乱物質、有機汚染物質)、放射性物質などが含まれている。

まとめ:私たち人類が繁栄しながら生き続けていくために

森林伐採がその環境に住んでいる生物種の生存に大きく関わることからも分かるように、各システムは完全に独立しているわけではなく、相互に関連しあっている。したがって、システムには階層構造が生まれ、中でも地球全体に多大な影響を与えるとして「気候変動」と「生物圏の一体性」はコア・システムであるとされている。

2023年時点で、限界もしくは安全域を超えているシステムは「①気候変動」「④生物圏の一体性」「⑤生物地球化学的循環」「⑥ 淡水利用」「⑦土地利用の変化」「⑨ 新規化学物質」の6つだった。大気中のCO2濃度上昇による気候変動の影響は、ここ数年、世界各地で異常気象による災害が次々と観測されているため、人々の実感としても大きいだろう。

各システムの影響は地域ごとで大きく異なり、プラネタリー・バウンダリーの概念は地域へとスケールダウンして適用することはできない。つまり、地域レベルでの災害や居住環境の悪化を問題視するのではなく、地球規模であらゆる影響を考慮していく必要がある。ややスケールの大きい話とはいえ、私たち人類が繁栄しながら生き続けていくうえでも、把握しておく必要があるだろう。

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【参照サイト】Earth beyond six of nine planetary boundaries
【参照サイト】All planetary boundaries mapped out for the first time, six of nine crossed
【参照サイト】Outside the Safe Operating Space of the Planetary Boundary for Novel Entities
【参照サイト】 Planetary Boundaries: Exploring the Safe Operating Space for Humanity
【参照サイト】A safe operating space for humanity
【参照サイト】Planetary boundaries: Guiding human development on a changing planet
【参考サイト】 Planetary boundaries
【参考サイト】 地球の限界 “プラネタリーバウンダリー” & 循環型社会~世界と日本の取り組みからみんなでできることを考える~ | 地球環境研究センターニュース
【参考サイト】 欧州環境庁、プラネタリー・バウンダリーの概念に基づく欧州の環境負荷に関する報告書を公表 |環境ニュース[海外]|EICネット




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